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最高裁判所第一小法廷 昭和53年(オ)596号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人平原昭亮、同石川良雄、同外川久徳の上告理由について

原審が確定したところによれば、(一) 上告人はその所有する本件土地を被上告人芹沢雄二に建物所有の目的で賃貸して来たところ、その賃料については地代家賃統制令の適用があるが、従前上告人も同被上告人もこれを知らず、その合意によつて統制額にかなり超過する賃料が支払われて来た、(二) もつとも、本件土地の統制賃料額は、地代家賃統制令による地代並びに家賃の停止統制額又は認可統制額を代るべき額等を定める建設省告示(昭和二七年建設省告示第一四一八号)を改正する昭和四六年建設省告示第二一六一号によつて昭和四七年一月一日以降大幅に増額され、これによつて本件土地の賃料額(同年四月一日以降につき月額二万九九八六円)は統制額に満たないものとなつた、(三) 本件土地の賃料額は、それぞれ上告人の増額請求に伴う双方の合意により昭和四六年四月一日以降三・三平方メートル当り月額二〇〇円、昭和四七年四月一日以降月額二万九九八六円(三・三平方メートル当り三一九円)となつたところ、更に上告人は、昭和四八年五月二二日被上告人雄二に到達した書面で同年四月一日以降の賃料を月額五万九三一四円(三・三平方メートル当り六三一円)に増額する旨の意思表示をし(ただし、その後に本件土地賃貸借につき地代家賃統制令の適用があることが判明したとして請求賃料額を統制額に則つて五万五九五七円〈三・三平方メートル当り五九五円三〇銭〉に訂正した。)、同被上告人はこれに対し三・三平方メートル当り月額四二〇円の割合による賃料額を提案したが、上告人において自己の請求金額を固執して応じなかつたため、同被上告人は従前の賃料額である月額二万九九八六円が適正額であるとして右金額による賃料の支払を続けた、(四) 上告人は、同被上告人に対し昭和四九年六月一一日到達の書面で前記統制額に則つて算出した昭和四八年四月一日から昭和四九年五月三一日までの賃料の未払分三七万三七二四円を右書面到達の日から四日以内に支払うよう催告したが、同被上告人においてこれに応じなかつたので、更に同被上告人に対し同年六月二二日到達の書面で本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした、(五) 昭和四八年五月当時における本件土地の統制賃料は月額五万五九五六円であるが、本件賃貸借における具体的事実関係のもとにおいてはその適正賃料額は月額三万九四八〇円(三・三平方メートル当り四二〇円)である、というのであつて、右認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし正当として是認することができる。

右事実関係に照らせば、上告人が、従前統制額が比較的低額であつたころはこれをかなり超過する賃料を受領しておきながら、統制額が昭和四七年以降比較的急激かつ大幅に増額され適正額をも上回るに至つた状況下でこれに乗じて大幅な賃料の増額を請求し、被上告人雄二から右増額に関して前記のような提案があつたのに自己の主張する賃料額を固執してこれに応ぜず、右増額請求に関して同被上告人に債務不履行があるとして本件賃貸借契約を解除するのは、信義則に反し、権利の濫用というべきであるとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 戸田 弘 裁判官 団藤重光 裁判官 藤崎萬里 裁判官 本山 亨 裁判官 中村治朗)

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